(1626)ARの観察

楽器学演習 1

 楽器学的な視点で、ルッカース楽器の観察をしてみましょう。

 写真は、前回ブログで予告したO'Brienの記号による(1626)AR フレースハイス博物館蔵です。
 (1626)は、n.d.=no dateつまり楽器に製作年記入がないか消えたかなので「推定年」、ARはアンドレアス・ルッカース作の略。

 問題  次の長方形フレミッシュ・ヴァージナルの正面写真を見て、得られる情報を挙げなさい。

Kindvirginaal A.Ruckers (2)


1.全体のサイズと木版の紋様から見て、ルッカース工房製母子ヴァージナルの子ヴァージナル。木版紋様紙のネーム・バテンが当たっていた部分が白みがかっている
 母子ヴァージナルの子ヴァージナルとは、カンガルーのように母ヴァージナルのボディ内にある状態で、または母楽器のジャック・レールを外して重ね、母楽器の鍵盤と連動させて二段鍵盤のようにして演奏する構造の小型楽器。ただし子楽器はオクターヴ高い4’音。したがって、本来この楽器のスタンドはなく、蓋もない。
2.英国向け輸出モデル以外の標準的音域は、ショート・オクターヴのC/E〜cなので最低音から上へ3音のキイは後に追加された音と思われる。よく見ると奥の木部の色が新しい。
3.特に最低Eフラットキイは不自然に太く、最低音Cキイも幅が大きい。

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 ネーム・バテンとは、キイ支点が見えないようネームボードに取り付ける製作年・製作者銘が書かれる薄板。イタリアンにはありません。現代ピアノの鍵盤の蓋内面に書かれるメーカー銘に、その用法が伝承されています。

 もともとアントワープ近郊のステルクスホフ銀器博物館にあったこの楽器は傷みがひどかったので、フレースハイス博物館に寄贈、修復して公開されています。
 (1626)ARについては拙著『著名博物館・コレクション別 チェンバロ クラヴィコード オリジナル楽器便覧』下巻99頁をご覧下さい。

 ルッカース工房製チェンバロは欧州大陸向けと英国向けのモデルでは音域が異なっていました。そのことと、ショート・オクターヴについては上巻75〜6頁「英国の低音域ロング・オクターヴ・バス」をご覧下さい。フィッツウイリアム・ヴァージナル・ブック等十六世紀英国鍵盤曲の音域と関係があります。


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