チェンバロのモットー研究 5

モーツァルト書簡とモットー その3

モーツァルト書簡とキリストの言葉 
 因みに、他にもモーツァルト書簡には例えば、チェンバロのモットーにはないが、有名な
予言者は故郷では歓迎されない(ルカの福音書 4-24 ほか)」
というキリストの言葉が、1778年1月26日付の父親Leopoldの手紙に記されています(拙著『Mozartファミリーのクラヴィーア考』132頁)。

 バッハはライプツィッヒで苦労するし、モーツァルト親子もザルツブルクでは「迫害に近い」処遇を受けるし、身近な天才に気付かない同時代人の姿からキリストの言葉に納得してしまいます。
 世間で高く評価されているパパに気付かない家庭の図は、「預言者が敬われないのは、自分の故郷、親戚や家族の間だけである」と語ったキリストの言葉どおりですね。

モーツァルト鍵盤曲の強弱記号
 それはともかく、やがてこの年の夏、たどり着いたパリでは思うような仕事を見つけることなく同伴してくれた母親と死別、悲しみを映した珍しい短調の《クラヴィーアソナタ イ短調 K.310》を作曲します。
 南獨と違いパリには十分な台数のピアノがなかった時代、階段が狭くクラヴィーア(ピアノかクラヴサン)を搬入できない宿は、「陽が当らず牢獄のよう・・」。しかし、繋がりをもったグリム男爵邸には英国のポールマン製スクエア・ピアノがありましたから、K.310にはピアノ向けの強弱記号が書き込まれたと思われます。
 クリスティアン・バッハのソナタをクラヴィーァ協奏曲(K.107)に編曲したとき、原曲にある強弱指示を無視しました。まだザルツブルクにはチェンバロしかなかったからです。そのようにモーツァルトは、チェンバロ向けの楽譜には強弱指示記入をしていません。
 1777年のシュタインとの出会い以前、強弱表現可能楽器=タンゲンテンフリューゲルを使っていたころのソナタ(例:ピアノソナタ第6番デュルニッツ ニ長調 K.284 (205b) )には、実に細かく強弱指示記入をしていることからみても、モーツァルトはあてがわれた楽器に合わせ、強弱記号を書いたり書かなかったり無駄のない対応をしています(拙著『Mozartファミリーのクラヴィーア考』46〜9頁)。

 ところで、ヴォルフガングはグリム男爵を「狡猾な連中に属し・・・」と評し、一方グリム男爵はレオポルトへの手紙に、「あまりにも無邪気・・騙され易く…お金に無関心・・」とヴォルフガング評を書いています(拙著『Mozartファミリーのクラヴィーア考』29頁)。

(つづく)

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